作業療法士とは

作業療法の「作業」とは

「作業」という言葉には、とても幅広い活動が含まれています。
食べたり、入浴したり、仕事したり、遊んだり、買い物したり、料理したり。人の日常生活に関わるすべての活動を「作業」と呼びます。だれもが「作業」をしており、「作業」があなたと社会をつないでいます。

「作業」とは

日常生活にかかわるすべての活動を「作業」と呼びます。

  • 1 セルフケア
    ※着替え・トイレなどの日常生活のこと
  • 2 家事
  • 3 仕事
  • 4 余暇
  • 5 地域活動

しかし、日々の仕事や趣味の活動、家事や着替えといった日常の「作業」は、病気やケガ、障害などで難しくなることがあります。
そんな「作業」を行うことが難しくなっている人たちのリハビリを支援するのが「作業療法士」であり、その手段を「作業療法」といいます。

「作業療法士」の仕事を知る

「作業療法」は、基本的な動作能力から社会のなかに適応する能力まで、3つの段階の能力を維持・改善し、「その人らしい」生活の獲得を目標にします。
また、その人を取り巻く環境をよりよく整備する働きかけも行います。

「作業療法」とは

「基本」「応用」「社会適応」これら3つの能力を維持・改善を行います。

基本的動作能力

運動や感覚・知覚、心肺や精神・認知などの心身機能行う作業療法

具体的なケア
物理的感覚運動刺激(準備運動を含む)、トランポリン、滑り台、サンディングボード、プラスティックパテ、ダンス、ペグボード、体操、風船バレー、軽スポーツなど

応用的動作能力

食事やトイレ、家事など、日常で必要となる活動行う作業療法

具体的なケア
食事・更衣・排泄・入浴などのセルフケア、起居・移動、物品・道具の操作、金銭管理、火の元や貴重品などの管理練習、コミュニケーション練習、福祉用具の作成や使用、退院後の住環境の調整など

社会的適応能力

地域活動への参加、就学・就労行う作業療法

具体的なケア
書字、計算、パソコン操作、対人技能訓練、生活圏拡大のための外出活動、銀行や役所などの利用、公共交通機関の利用、絵画、音楽、各種ゲームなど

作業療法の対象となる人は

病気やけが、もしくは生まれながらに障害がある人など、年齢に関係なく、日常生活に支援を必要とする人すべてが作業療法の対象です。
人生のあらゆるステージで、「作業」を通じて、人と社会のつながりをつくります。

心と体を

こころ 統合失調症、うつ病、双極性障害、依存症、神経症性障害、高次脳機能障害、認知症、発達障害、摂食障害など
からだ 脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、脳腫瘍、脊髄損傷、パーキンソン病、がん、呼吸器疾患、抹消神経、障害、関節リウマチ、ALSなど

人生のあらゆるステージで

発達期 脳性麻痺、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害、重症心身障害など
高齢期 認知症、骨折、骨関節疾患、廃用症候群、フレイルなど

作業療法士の就職先

作業療法士は医療や福祉・介護・福祉の領域はもちろん、保健・教育・就労支援などの領域でも治療だけでなく、予防的な働きかけや社会復帰の支援、学校での教育支援などをしています。

  • 医療 総合病院、リハビリテーション病院、精神科病院、クリニックなど
  • 介護 介護老人保険施設、デイケア、デイサービス、訪問リハビリテーション、訪問看護ステーションなど
  • 福祉 児童発達支援センター、放課後等デイサービス、就労移行支援事業所、生活介護事業所など
  • 保健 保健所、地域包括支援センター、精神保健福祉センター、地方自治体など
  • 教育 特別支援学校、教育委員会など
  • 労働 障害者就業、生活支援センター、障害者職業センター、ハローワークなど
  • 司法 刑務所、医療刑務所、保護観察所など

作業療法士と理学療法士の違いとは

作業療法士と理学療法士は、ともにリハビリテーション分野における専門職ですが、それぞれ得意な分野が異なります。

作業療法士

作業療法士は作業を通して身体と心のリハビリテーションを行う専門家です。基本的な動作の上に、応用的な作業や活動を積み上げていくリハビリテーションを得意とします。

例えば、理学療法で獲得した立ち上がりの動作をさらに一歩進めて、トイレの動作や着替えの動作など、日常生活に必要な動作につなげていくのが作業療法士です。

さらに作業療法士は、リハビリテーションの専門職の中で唯一、精神に障害のある方への専門的なアプローチが可能な職種です。そのため、精神科の病院やデイケア、認知症関連の施設などでもその専門性を発揮しています。

作業療法士は作業を通して対象者の生活を構築していくという特性から、障害のあるなしに関わらず、支援を必要としている人すべてに作業療法を提供することができます。

理学療法士

理学療法士は、寝返りや起き上がり、歩行などといった、日常生活を送る上で欠かすことのできない基本的な動作の獲得・回復を目的としたリハビリテーションを行います。治療の手段としては、主として「運動療法」や「物理療法」を用います。

「運動療法」とは、立ち上がりや歩行といった、日常生活を送る上で基本となる動作の訓練や、動作の土台となる筋力や関節の動きを維持・改善する訓練を指します。

「物理療法」は電気・温熱・光線などを用いた治療です。理学療法では、運動療法と物理療法の組み合わせによって、対象者の身体機能の回復や基本的動作能力の回復を促します。

理学療法士は、対象者が安全な日常生活を送るため、動作の土台作りをサポートする専門家であるといえるでしょう。

作業療法士になるには

国家試験の受験

国家試験の受験(図) 国家試験の受験(図)

作業療法士は国家資格の一つです。そのため、作業療法士になるには、まず作業療法士国家試験に合格しなければなりません。

なお、国家試験を受験するためには、作業療法士養成校を卒業している(または卒業見込みである)ことが必要です。

作業療法士の養成校は全国におよそ128校あります。養成校には専門学校や大学があり、修養年数は3年または4年とされています。修養年数に違いはあっても、卒業までに修得すべき知識や技術には差はありません。養成校では医学的な基礎知識をはじめ、作業療法に必要な専門的な知識、実際の医療・福祉現場での臨床実習など、幅広い知識や技術を学びます。

国家試験の合格率

作業療法士国家試験は毎年2月に実施され、2日間に分けて筆記試験と口述試験および実技試験がおこなわれます。 2021年に実施された「第56回作業療法士国家試験」の結果は以下のとおりです。

合格発表 2021年3月23日
受験者数 5,549人(4,895人)
合格者数 4,510人(4,345人)
合格率 81.3%(88.8%)

※()内は新卒者のみの割合

作業療法士国家試験 受験者数と合格率の推移

作業療法士国家試験 受験者数と合格率の推移(図) 作業療法士国家試験 受験者数と合格率の推移(図)

※厚生労働省発表資料に基づく

合格率は80%前後で推移していますが、年によってバラつきが見られます。

作業療法士国家試験の概要

作業療法士国家試験の概要は次の通りです。

<科目・試験方法>

(1)筆記試験:一般問題および実地問題に区分して次の科目について出題される
一般問題
解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む)、臨床、医学大要(人間発達学を含む)および作業療法

実地問題
運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む)および作業療法
(2)口述・実技試験:重度視力障がい者に対して、筆記試験の実地問題に代えて次の科目が出題される
・運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む)および作業療法

作業療法士の年収について

これから作業療法士を目指す方や、現在作業療法士として働いている方にとって気になるのは、やはり給与などの収入面だと思います。

2020年9月に発表された厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると理学療法士・作業療法士の平均月収は28万7,500円、平均年収は409万6,400円でした。

作業療法士の給与は、働いている地域や経験年数などによって、違いが出ることがありますが、あくまでも全国の平均データとして参考にしてください。